探偵業界の今後について

探偵事務所や興信所で30年ほど浸かっていると時代の移り変わりもハッキリと体験してきましたし、急速な流れについていけない部分もありました。

まずは広告の変化

探偵事務所や興信所の広告と言えば黄色い表紙でお馴染みの「電話帳」。とても分厚くて一般回線を引いている家庭であれば無料で配布されておりました。その電話帳も利便性を求めてなのか?広告収入の増加を見込んでなのかは分かりませんが、地域ごとに細かく分冊されていきました。

昭和の時代は23区内の個人名電話帳は一冊で収録できていましたが、人口増加の影響なのか区別に収用されるようになりました。

お店や企業向けのタウンページについても23区内で一冊でしたが、エリアごとに分冊されていきました。ですから分冊された地域ごとに広告を出さないといけなくなり、結果広告費が増大していきました。

探偵事務所や興信所の広告合戦は凄まじくて、広告ページの掲載順序はくじ引きで決められていた時期もあります。公平と言えば公平なのですが、資金力のある探偵事務所は数ページに亘って広告ページを出すことで集客を見込んでいたようです。

しかし、思ったように集客できなくて広告費用を工面できず退場となった大手事務所がいくつかありました。ある程度の固定客がついているような事務所ではあまり広告費用をかけなくてもなんとか生き延びている事も出来ていますが、次から次へと仕事が舞い込まない限り一等地に構えているオフィスの維持費は辛かったと思います。

平成に入り、時代は流れて広告の出稿先はタウンページなどの紙媒体からインターネットに変わりました。インターネットはくじ引きなどで掲載順序が公平に決まるという事はありません。

ネット事情に長けている人物が一人いれば会社のwebsiteを上位表示できる可能性はありますが、昔ながらのアナログな探偵事務所は埋もれていきました。

インターネットの世界でも広告を沢山出せば問い合わせに繋がります。インターネットの広告は非常に細かく掲載することが可能で、曜日、時間、地域など以前の広告効果を確かめながら掲載することが可能になりました。

それと同時に悪戯でクリックされてしまうという悪循環もあります。

インターネットが浸透してきてからは見たことも聞いたことも無いような探偵事務所が沢山の広告を出して台頭してきました。見栄えの良い立派なwebsiteと広告を出稿し、多くの依頼人を掴むことが可能になりました。

新興の探偵事務所、興信所が多くの仕事を受注し、下請けの調査員を安く使うことによって利益を確保しました。また、多くの仕事を受注するにあたって相談員と下請け調査員のレベルも少しづつレベルアップしていったはずです。

年間10件の仕事量と100件の仕事量では多ければ多いほど経験値もあがります。

以上のように昔ながらの探偵事務所は去っていき、時代に合った活動を行える事務所が生き残っていくのです。

下請け調査員の実像

昭和の時代から下請け調査員は実在していました。現代のように時給制ではなく、ある程度の額を報酬として支払っていました。

平成に入ってから下請け専門の調査員が増加していきます。仕事のない時に事務所で缶詰になっているよりも、自由な時間が増えます。探偵の時給は良い方なので、仕事が安定的に入ってくれば御の字ですし、今の時代の働き方に合っているのかもしれません。

下請け専門の調査員の時給は調べたところによると一時間当たり1500円から3500円。仕事が上手くいけばさらにチップも貰える可能性もあります。時給制の仕事の殆どが浮気調査などの尾行調査で、稼働時間が長くなればなるほど調査員の懐も温かくなるというわけです。

一日8時間尾行調査を行い、週4日の仕事が安定的に入れば月収32万円ほどになります。(時給2500円計算の場合)

以上のようなケースですと、単身なら贅沢をしなければ十分生活が可能です。しかしながらそのような安定した仕事が毎月入ってこないのが現状ですし、仕事が上手く行かなかった場合や、上手く行っても2時間で終わってしまうケースもざらなので、生活自体は苦しい下請け調査員が多いはずです。

時々はまとまった仕事が入るので実働時間が長くなり、月収が60万円とか100万円を超える場合もあります。体力的にはかなりキツイですが、良い思いをするときがあるので下請け調査員は頑張っているのだと思います。

下請け調査員の実像は20歳代から40歳代が多く、50歳代の下請け調査員は殆ど見たことがありません。もし居たとしても業務内容が雇用関係や法人の信用調査、保険調査関係の人物だと思います。尾行専門の下請け調査員は年々体力の衰えを感じ、どこかで引退をしているものと思われます。

浮気調査ばかりやっていると「それ」しか出来なくなっているのがダメで、他の調査の経験が乏しくて使い物にならない調査員も増えています。

この記事を読んでいる下請け調査員の方は、いつか己の体力や精神力に限界が来ることを考えてください。どこかで方針転換をして人を使う立場になるか、引退するかを決めなければならない時が訪れます。

新企業体の参入

新興の探偵事務所や興信所は主に浮気調査の受注を一生懸命考えています。中には弁護士事務所が自ら探偵業の届出を出し、法律事務所と探偵事務所を併設しているところもあります。

浮気調査を探偵事務所部門で受け、その後の裁判などをワンストップで行えるので浮気相手への損害賠償請求や離婚裁判まで考えている依頼人にとっては便利な側面もあります。

令和に入ってからはSEO対策に強い業者も参入してきております。インターネット関連企業がそのうちの一つです。効果的なSEO対策、見栄えが良くて分かりやすいwebsiteの構築が出来れば自ずと依頼が舞い込んできます。

ある程度の知識があれば誰でも簡単に参入できるのが探偵業界ですから依頼人の要望をよく聞き、それを下請けの探偵事務所や下請け専門の調査員に流せば、あとは再び依頼が舞い込むように検索順位の事や効果的な広告出稿のタイミングなどを精査すればよいのです。

新企業体の参入は人材を募集している転職サイトなどで発見することができます。

アナログとデジタル

浮気調査は尾行を行い、決定的な瞬間をビデオカメラやデジタルカメラで証拠撮影を行うアナログな仕事です。昔も今も変わりません。変わったのは調査に使うカメラやビデオなどの調査アイテムの性能が飛躍的に向上しました。

浮気調査に代表される尾行調査はいつ出てくるか分からない状態で自宅や勤務先から行い、依頼人から差し出された顔写真を基に本人を特定して尾行を行います。そこにデジタルの恩恵はありません。あるとすれば地図アプリなどで事前に現地の様子が分かるくらいです。

デジタル的にはインターネットから簡単に様々な情報を得ることが可能になりました。あらゆる情報がデジタル化され、無料・有料で個人の情報がオフィス内で得られるようになりました。

前述したように地図アプリで現地の様子が分かりますし、デジタルカメラなら拡大して細かいところまで判別可能になりました。SNS関連も調査に必要な情報が得られます。また、パソコン操作やネットの情報に詳しい調査員がいればあらゆる情報から個人の動きを察知することは可能です。

アナログな部分は変わりませんが、デジタルに関してはかなり進化していかないと調査員としての価値は低く見積もられるでしょう。

浮気調査の取り合い

どこの探偵事務所のwebsiteを見ても浮気調査を全面に打ち出しているのが分かります。それくらい浮気調査の需要があります。調査自体とても簡単ですし、お金にもなりやすいという側面があります。

浮気調査は受ける方としては目的も内容も単純明快なのです。張り込みや尾行は体力的に大変ですが。

ですから日本全国中の探偵事務所が”浮気調査” ”浮気調査”と連呼し奪い合う状況になっております。インターネットの広告でビッグキーワードである「浮気調査」のキーワードですとワンクリック数千円する場合もあり競争の激しさを物語っています。

他にも色々なジャンルの依頼はあるのですが、担当相談員と調査員が未熟であり、基本的に尾行調査(浮気調査)しかやったことがないから依頼人に提案が出来ないという側面もありますし、忙しいからとか言い訳をつけて断られるケースがあると聞きます。

斜陽産業としての展望

探偵事務所や興信所は残念ながらコロナ禍以前より斜陽産業の一つです。多くの探偵事務所や興信所が経営の危機に見舞われています。雇っていた常駐の調査員は時給制の下請けに変わりました。

事務所に居るのはオーナーと事務的な仕事をする人物、相談員のみのところも増えました。

出来る限りオフィス周りの経費を押さえて営業や広告関連に資金を回し、仕事は信頼ある下請けの調査員にお願いするといった形が増えました。大手に見える探偵事務所も各支店はレンタルオフィスであったりします。それが悪いとは言えませんが。

意外にも固定客がつくということが探偵事務所にもあります。調べることが好きな依頼人というのは実在し、割といい値段で仕事をさせてくれます。これは最初に提出した報告書のレベルが高かったからと言えます。

大企業を顧客に持つことも大事です。大企業は常に問題を抱えているので予算が合えば調査に繋がります。しかし、大企業の欲するレベルは高いので、その要望に応えることのできる経験のある調査員と相談員が揃っていなければなりません。

要望に合ったレベルの高い報告書を出せるかで事務所の未来がかかっていると思います。画質の悪いホームビデオしか使っていない、契約時間以外のサービス的な調査が無いなど、依頼人が望む以上のサービスが無ければ生き残るのは難しいと思います。

個人情報保護法が施行されて以降、様々な面で調査することが難しくなりました。だからこそ情報に価値が生まれるのです。